飛べないアヒルはただのカモ

気が向いた時に駄文を書きます

いつか大空へ羽ばたくために…

三題噺「兄、銀、夕暮れ」

銀。それは競技などで"2番目"を意味する色である。私、井上ひかりは昔から勉強もスポーツも背の高さから出席番号、兄弟だって兄と私の2人であらゆることで常に2番の"銀"だった。
常に2番目なんて悔しくないのか、と言われることもあるが私はそうは思わなかった。むしろ誇りに思っていた。たとえ1番でなくても2番だって素晴らしいじゃないか。オリンピックで銀メダルを獲得して涙を流す選手やテストの点数で2位をとって悔しがる生徒がいたが私には共感し難い。いつぞやの国会議員が「2位じゃだめなんですか」と檄を飛ばしていたが全くその通りだと思った。『上には上がいる』それでいいじゃないか。別に恥じることでも何でもない、賞賛されるべきものだ。だからそんなことで悔しがる、ましてや涙を流すなんて考えられなかった。
高校を卒業し、大学生になった私は1つ上の先輩を好きになった。私は、生まれて初めて1番になりたいと思った。先輩と同じサークルに入り仲良くなろうと努力した。その甲斐あってか告白の末、先輩と付き合うことになった。それからは世界が変わった。毎日が楽しかった。2位じゃだめだ。1番がこんなに素晴らしいものだったなんて。その時の私は銀ではなく、金色に輝いていた。
ある日の放課後、私は講義が終わり帰路についていた。その日はたまたまいつもとは違う道で帰った。なぜそうしたのか理由は分からない、何となく。知らない女の人と手を繋いで歩いている先輩を見つけてしまった。私はしばらくの間、何が何だか分からなかった。今、目の前で起きていることは現実なのか。だが、これは夢ではない。受け入れ難い現実に吐き気さえ催した。金だと思っていた自分は金のメッキが貼り付けられているだけだったのだ。ああ、そうだった。すっかり忘れていた。やはり私は、"銀"なのだ______。
夕暮れの光が皮肉にも私を金色に照らしていた。

 

 

 

 

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